「その瞬間に全振りする」——伝記家・清水宣晶さんの、人生を味わい尽くす生き方
世の中には、仕事と趣味、あるいは仕事と家庭を器用に両立させる「バランス型」の人がいる一方で、ある時期はひとつのことに100%のエネルギーを注ぎ込む「全振り型」の人がいる。清水宣晶さん(通称:あっきー)は、間違いなく後者の生き方を体現している人だ。
大学卒業後、システムエンジニアとしてNECに勤務し、わずか2年で独立。その後、webシステム制作会社「(株)インフォアロー」を立ち上げ、スケジュール調整サービス「伝助」などのヒットサービスを生み出した。しかし、彼が本当に面白いのは、その華々しいキャリアの裏側にある「全振り」の哲学である。
20代は仕事に全振りし、子どもが生まれると「すべての決定的瞬間を見逃したくない」と子育てに全振りする。そして現在は、縁あって出会った人々の話を記録する「暮らし百景」の活動に全振りしている。一見すると極端にも思えるこの生き方の奥には、どんな思想が隠されているのだろうか。
| 項目 | 内容 |
| 氏名 | 清水宣晶(あっきー)さん |
| 主要な活動領域 | 暮らし百景(対話・伝記の記録)、伝助の運営、伝記カフェ |
| キーワード | 全振り、伝記、ライフワーク、子育て、長野移住 |
| 記事の主題 | ひとつのことに100%向き合う「全振り」の生き方と、記録することの価値 |
仕事人間から「子育て全振り」への鮮やかな転換
清水さんの20代は、まさに「仕事全振り」の時期だった。システムエンジニアとして独立し、会社を立ち上げ、寝る間も惜しんでシステム開発に没頭していたという。しかし、第一子が誕生した瞬間、彼の人生のベクトルは180度転換する。
「もうとにかく、子どもに全振りをするんだって決めたんです。初めてつかまり立ちをした瞬間、一歩進んだ瞬間。そういう決定的瞬間を、全部見逃したくなかった」
言葉にするのは簡単だが、実際にキャリアを中断し、子育てに100%の時間を注ぐことは容易ではない。多くの人が「そうできたらいいな」と夢見ながらも、現実的な不安から踏み切れない選択だ。しかし清水さんは、それを10年近くにわたって実践した。奥様と共に「2人で全振り」という密着状態での子育て。それを可能にしたのは、彼が20代のうちに築き上げたシステムの仕事が、メンテナンスやサポート中心の働き方に移行できていたからだという。
「自分にとっては当たり前の生活だったけれど、平日昼間からブラブラしているおじさんは、一体何をやっているんだと不思議がられていたかもしれませんね(笑)」と彼は笑う。しかし、その「不思議な生活」こそが、彼が自らの手で選び取った、最も豊かな時間の使い方だったのだ。
「暮らし百景」——人の生き様を伝記として残すライフワーク
子育てが一段落し、再び自分の時間を持てるようになった清水さんが現在「全振り」しているのが、『暮らし百景』というプロジェクトである。縁あって出会った人々の話をじっくりと聞き、それを「伝記」として記録し続ける活動だ。
驚くべきことに、この活動は完全にライフワークであり、ビジネスではない。「これで稼いだことは1円もないし、ビジネスにしないように頑張ってきた」と彼は語る。仕事にしてしまうと、純粋な興味や楽しさが損なわれてしまうかもしれない。だからこそ、生活の糧はシステムの仕事で最低限稼ぎ、残りのすべての情熱をこの「人の話を聞き、記録する」ことに注いでいるのだ。
「世の中には、とても面白い考えを持っていても、それを自分の心の中だけにしまっている人が多い。放っておけば消えていってしまうであろう、その思想の断片を惜しむんです」
この言葉には、清水さんの人間に対する深い愛情と敬意が込められている。彼にとってのインタビューは、単なる情報収集ではない。その人が生きてきた軌跡、その人にしか語れない哲学を、まるで一本の映画や小説のように丁寧にすくい上げ、形にしていく作業なのだ。
「つなぐ」ことを目的としない、静かなる「つなぎ道」
つなぎ道の活動が、意図的に人と人をつなぎ、新たな価値を生み出そうとする「動」のネットワーキングだとすれば、清水さんの『暮らし百景』は、記録を通じて自然な出会いを待つ「静」のネットワーキングと言えるかもしれない。
彼は、インタビューした人同士を積極的に引き合わせることはあまりしないという。「自分が介入しすぎることで、相手にとって嬉しいかどうかわからないから」という奥ゆかしさがそこにある。しかし、彼が残した「伝記」を読んだ人が、そこに登場する人物に興味を持ち、自ら連絡を取るという形で、見えない縁が次々と生まれている。
「自分の中にいっぺん溜めといて、出会いを待つ」
このスタンスは、情報が消費され、人間関係さえも効率化されがちな現代において、とても贅沢で美しい。彼が蓄積しているのは、単なる記事のアーカイブではなく、いつか誰かと誰かが出会うための「種」のようなものなのだろう。
死ぬ直前まで積み重ねたい、記録という名の「終活」
「今やっている活動は、死ぬまでやるイメージです。毎日人の話を聞いて、それを死ぬ直前まで積み重ねていけたらなと」
清水さんは、自身の活動をある種の「終活」だと語る。これまでに出会った人々とゆっくり話し、その記録を残していく。それは、自分の人生を豊かに彩ってくれた人々への恩返しであり、自分自身の生きた証を確認する作業でもあるのだろう。
仕事に全振りし、子育てに全振りし、そして今は人の生き様を記録することに全振りしている。その時々で、自分が一番大切だと思うことに100%のエネルギーを注ぐ。その潔さと純粋さこそが、清水宣晶という人の最大の魅力である。
「ある時突然、また別の全振りすべき対象が見つかるかもしれない。孫が生まれたら、また孫に全振りするかもしれないですね」と笑う彼の未来には、まだ見ぬ「全振り」の景色が広がっているに違いない。
#14 伝記家あっきー (清水宣晶)|子育てと伝記に全振りし続けるという生き方
インタビューメディア「暮らし百景」編集長
https://kura100.com
縁があってお会いした人たちに聞いたお話しを、伝記として形に残すことをライフワークにしている。
横浜生まれ自由が丘育ち。1男1女の父。2022年4月、横浜から長野に家族4人で移住。慶應義塾大学文学部 図書館・情報学科卒業。システムエンジニアとしてNECに勤務後、webシステム制作会社「(株)インフォアロー」を設立。経済産業省認定ネットワークスペシャリスト。知り合いのお店や家にエスプレッソマシンを持参してカフェラテを淹れる「伝記カフェ」をときどき開いている。好きなことは散歩と登山と読書と対話。
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