中小企業の「見えない強み」を見える戦略に変える人
「大企業だけのものだった戦略を、もっと現場に近い場所へ」——ストラテジーオップス伊藤悠さんが目指す“経営企画の仕組み化”

戦略コンサルティングという言葉には、どこか遠い世界の響きがあります。大企業が何千万円もの予算をかけて依頼するもの。高度である一方で、多くの中小企業には手が届きにくいもの。そんなイメージを持つ人は少なくないでしょう。けれども、今回の対話を読んでいると、その距離感は本当に変えられるのかもしれないと思わされます。伊藤悠さんが取り組んでいるのは、まさにその“遠いはずの戦略”を、中小企業の現場へ引き寄せる仕事だからです。
伊藤さんの話が興味深いのは、AIを使った効率化や新規事業支援といった流行語だけでは説明できないところにあります。彼の仕事の芯にあるのは、単なるツール導入でも、表面的な業務改善でもありません。その会社が本来持っている強みを見つけ、言語化し、次の成長へつながる形に変えること。しかもそれを、経営者だけが頭の中でわかっている状態から、社内外の人にも共有できる“見える資産”へ変えていくことにあります。
学生起業、広告代理店、総合コンサル、戦略コンサル、そして独立。経歴だけを見ると、かなり多面的です。けれども話を追っていくと、その歩みは意外なほど一貫しています。ずっと彼が向き合ってきたのは、「中小企業の力をどうすればもっと生かせるのか」という問いだったのだと思います。
学生起業から戦略ファームまで——すべては“中小企業を支える力”を手に入れるための遠回りだった
伊藤さんは、学生時代から経営者インタビューに深く関わっていました。自らアポイントを取り、社長たちに会いに行き、話を聞き、記事にする。その行動力は当時から際立っていたようですが、印象的なのは、その経験が単なる学生時代の活動で終わっていないことです。人に会い、話を聞き、その人や会社の本質をつかもうとする姿勢は、今の仕事にもそのままつながっています。
その後、シリコンバレーで立ち上げた事業を畳み、広告代理店へ入り、デジタルマーケティングからナショナルクライアントの統合的なプロモーションまで幅広く経験します。さらにその先で、総合コンサル、戦略コンサルへと進み、事業戦略や新規事業開発の上流工程に携わるようになりました。普通なら、そのたびにキャリアの軸が変わって見えてもおかしくありません。けれども、伊藤さんの話を聞いていると、むしろ逆です。どの環境でも、「会社の強みをどう整理し、どう市場につなげるか」という問いに近づいていったように見えます。
興味深いのは、彼自身がこの歩みを“修行”として捉えていることです。学生起業で現場の泥臭さを知り、代理店で市場との接続を学び、コンサルで企業戦略の組み立て方を身につける。そのすべてが、最終的には中小企業を支援するための準備だった。そう考えると、ばらばらに見えたキャリアが一つの物語として立ち上がってきます。
| フェーズ | 伊藤さんが得たもの | 現在の仕事へのつながり |
| 学生時代のインタビュー活動 | 経営者に会いにいく行動力、対話力、取材力 | 経営者の思いや会社の本質を引き出す土台 |
| シリコンバレーでの起業 | 市場の違いを現地で捉える感覚、事業の試行錯誤 | 強みと市場のズレを見抜く視点 |
| 広告代理店 | マーケティング、販路、訴求、実行の感覚 | 強みをどう売上につなげるかという視点 |
| コンサルティングファーム | 戦略設計、アセット分析、新規事業構想 | 企業の強みを構造化し、次の成長へつなぐ設計力 |
| 独立後のストラテジーオップス | AIと実務を組み合わせた提供モデル | 中小企業でも使える形への翻訳 |
なぜ今、中小企業に「戦略」が必要なのか——社長の頭の中にある強みを、会社の資産に変える
伊藤さんが今強く向き合っているのは、中小企業の経営戦略や経営企画を“仕組み化”することです。ここでいう仕組み化とは、難しい経営理論を押しつけることではありません。むしろ、社長の中には確かにあるのに、まだ言葉になっていない強みや可能性を、外から見てもわかる形へ変えていくことに近いように感じます。
この視点は、中小企業の現場ではとても重要です。技術はある。顧客との信頼もある。長年積み上げてきた暗黙知もある。にもかかわらず、それが「うちの強みは何か」と問われた瞬間に、うまく言葉にならない会社は少なくありません。社長は感覚的にはわかっていても、それが資料になっていない。組織の言葉になっていない。市場や次の顧客に向けたメッセージにもなっていない。だから価値があるのに、十分に伝わらない。
伊藤さんがしているのは、その埋もれている価値を掘り起こし、構造化することです。会社が持つアセットを整理し、それがどの市場や用途に広がりうるのかを考える。場合によっては、社長自身が思っている強みと、第三者から見た本当の強みが違うこともあるでしょう。けれども、そこで対話を重ねながら、「この会社は何で勝てるのか」を定義していく。これは単なる分析ではなく、会社の未来の意思決定軸をつくる仕事なのだと思います。
伊藤さんの話で印象的だったのは、この作業が新規事業にも、事業承継にも、販路開拓にもつながるという点です。自社の強みが曖昧なままだと、新しい挑戦をしようとしても判断がぶれやすい。逆に、アセットがきちんと見えていれば、「どこへ行くべきか」を考えるための軸ができます。言い換えれば、強みの可視化とは、過去の棚卸しであると同時に、未来の選択肢を増やす行為でもあるのです。
AIは答えを代わりに出すものではなく、戦略を“届く価格と速度”にするための手段である
伊藤さんが独立を決めた背景には、戦略コンサルティングの現場で感じたAIのインパクトがありました。これまで何カ月もかけていたプロジェクトの一部は、AIを使うことでかなり短時間に整理できるようになってきた。そうであるなら、本来は大企業しか使えなかった戦略的な思考や分析の一部を、もっと広い層に届けられるのではないか。そこに彼は可能性を見出しました。
この発想が面白いのは、AIを“人間の代わり”として語っていないことです。むしろ、AIによってコストと時間を圧縮し、そのぶん人間は「何を強みと見るか」「どこへ向かうか」「どう納得して意思決定するか」という本質的な対話に集中できるようにする。そんな使い方を考えているように見えます。
実際、戦略は資料をつくれば終わりではありません。分析結果をどう読み解くか。経営者がそれに納得できるか。社内で共有し、次の行動に移せるか。そこには、やはり人の介在が必要です。伊藤さんの仕事は、AIで自動化できるところを賢く圧縮しながら、人が向き合うべき核心に時間を使う設計なのだと言えるでしょう。
| 観点 | 従来の戦略コンサルの印象 | 伊藤さんが目指す形 |
| 主な顧客 | 大企業、上場企業、大きな予算を持つ企業 | 中小企業、製造業、成長したい現場に近い会社 |
| 進め方 | 長期間・大人数・高額になりやすい | AI活用で圧縮しつつ、少人数で本質を押さえる |
| 価値の中心 | 分析の深さ、資料の厚さ、ブランド力 | 強みの可視化、意思決定の軸づくり、実行への接続 |
| 終着点 | 戦略提言で終わることもある | マーケティングや販路まで含めて伴走できる |
「強みを見つける」と「売れる形にする」を両方持っているところに、伊藤さんの独自性がある
中小企業支援の世界には、戦略に強い人もいれば、営業やマーケティングに強い人もいます。けれども、その両方を実務として跨いでいる人は、実はそれほど多くありません。伊藤さんの強みは、そこを横断している点にあるのだと思います。
戦略ファームで培ったのは、企業のアセットを構造的に見る力でした。何が核なのか、どこに伸びしろがあるのか、新規事業としてどんな方向性がありうるのかを整理する力です。一方、広告代理店時代に培ったのは、それをどう市場へ届けるかという感覚でした。どんな訴求にすればいいのか。どんな販路がありうるのか。どのように実行へ落とし込めるのか。つまり、伊藤さんは「強みの発見」と「強みの流通」を両方扱える人なのです。
この二つが結びつくと、支援の質は大きく変わります。分析だけでは、現場は動きません。マーケティングだけでは、何を売るべきかが曖昧なままになります。けれども、まず強みを定義し、そのうえで売れる形に翻訳するところまで一気通貫で見られるなら、企業はかなり動きやすくなるはずです。伊藤さんが製造業の技術やサービス企業の人材アセットに着目しているのも、その両方が見えるからこそでしょう。
これから始まるのは、中小企業の“すごさ”を掘り起こすインタビューかもしれない
今回の対話で、もう一つ印象に残ったのは、伊藤さんが今後、中小企業へのインタビュー活動も広げていこうとしていることでした。これは単なる発信施策ではないはずです。むしろ彼にとってインタビューとは、昔からずっと続いている仕事の原型なのだと思います。相手の話を聞き、まだ本人も言い切れていない価値を見つけ、それを他者に伝わる形にする。その営みは、学生時代の取材活動から、コンサルティングの現場、そして今の事業まで、一貫して流れています。
もしこの活動が本格的に動き出せば、単に企業紹介のコンテンツが増えるだけではないでしょう。まだ世の中で十分に知られていない中小企業の技術や工夫、地域に根ざした強み、そしてAIを含めた新しい取り組みが、少しずつ言葉になり、見えるようになっていくはずです。そうなれば、それは営業支援であると同時に、日本の産業の見え方を変える活動にもなりえます。
ここまで読んでくると、伊藤祐さんの仕事は「中小企業向けのAIコンサル」や「新規事業支援」といった言葉だけでは収まりきらないと感じます。もっと正確に言えば、会社の中に眠っている価値を見つけ、それを戦略に変え、さらに社会へ届く形へ翻訳していく仕事なのだと思います。戦略をつくる人であり、強みを言語化する人であり、販路へつなぐ人でもある。その複合性こそが、ストラテジーオップスという名前の中身なのでしょう。
大企業には大企業の戦略がありました。けれどもこれからは、中小企業にも中小企業の戦略が、もっと当たり前に必要になるのだと思います。そのとき求められるのは、難しい言葉を並べる人ではなく、現場にある価値を見つけ、経営者が納得できる形で整理し、次の一歩までつないでくれる人ではないでしょうか。伊藤さんは、その役割をかなり実践的な形で担おうとしている人なのだと感じました。
まだ言葉になっていない会社の強みは、世の中にたくさんあります。そして多くの場合、それは外から少し整理されるだけで、驚くほど輪郭を持ちはじめます。伊藤祐さんがやろうとしているのは、まさにその瞬間を増やしていくことなのかもしれません。中小企業の可能性を、社長の頭の中だけに閉じ込めないために。見えない強みを、見える戦略へ変えるために。これから先、この仕事の価値はますます大きくなっていくように思います。
#3 伊藤悠|中小企業の強みを可視化し新規事業を創出する起業家
株式会社ストラテジーオプスCEO
学生時代、シリコンバレーで起業を経験
広告代理店、戦略コンサルティングファームを経て再び起業
HP https://strategyops.co.jp/
FB https://www.facebook.com/yuito0403b
