つなぎ道トーク撮影後、荒木さんがシリコンバレーへ行くことになりました。あまりにも大きな変化があったため【後編】を実施することになりました。2026年7月2日公開予定です。
「そのまんま荘」が仕掛ける、泊まることで人生が動き出すプラットフォーム
恵比寿の雑居ビルに二段ベッドが所狭しと並んでいた頃、そこには毎日のように地方から上京してきた若者たちが集まり、キャッキャと笑い合いながら、不思議なエネルギーを放っていた。「そのまんま荘」と名づけられたその場所は、4年間で1000人以上の大学生を3泊無料で迎え入れた、ちょっと常識では説明しにくい空間である。
今回の対話のゲストは、その「そのまんま荘」を立ち上げた荒木孝文さんだ。コロナ禍で3000万円の借金を抱え、一度はすべてを畳んだ彼が、テレビ東京の番組で「もう一度シェアハウスがやりたい」と本音をこぼしたところから、物語は再び動き出す。クラウドファンディングで200人の支援を得て再始動した「そのまんま荘」は、かつての延長線上にありながら、AIという新たな武器を手にして、まったく別次元の構想へと進化していた。佐藤孝治との対話の中で、その全貌が初めて語られる。
1万円を「払って」学生を泊める人たち——逆転の構造が生んだ20の拠点
再始動した「そのまんま荘」の最も特異な点は、そのビジネスモデルの逆転にある。通常、宿泊に関わるサービスでは泊まる側がお金を払う。しかし荒木さんが設計した仕組みでは、学生を自宅に迎え入れるホスト側が年会費1万円を支払う。しかも、クラウドファンディングで「1万円払って学生を泊めてくれませんか」と呼びかけたところ、20人が手を挙げた。都内10カ所、地方10カ所、さらにはアメリカにも拠点が生まれている。
ホストの動機はさまざまだ。かつて自分が泊めてもらった元ユーザーが「今度は自分が迎える側になりたい」と名乗り出るケースもあれば、小学生の子どもに「行動力のある大学生のお兄さん・お姉さんと触れ合わせたい」と考える家庭もある。海外からの留学生を受け入れるホストファミリーに近い感覚だが、1泊単位で気軽にできるという点が決定的に異なる。
| 観点 | 従来の宿泊サービス | そのまんま荘 |
| 費用負担 | 泊まる側が支払う | ホスト側が年会費を支払う |
| 関係性 | サービス提供者と顧客 | 家族のような対等な関係 |
| 期間 | 契約に基づく滞在 | 1泊単位、柔軟に |
| 目的 | 宿泊そのもの | つながりと成長の場 |
| 法的位置づけ | 宿泊業 | コミュニティ(金銭授受なし) |
ここで重要なのは、「そのまんま荘」が宿泊業ではないという点だ。ホストと学生の間に宿泊料としての金銭のやり取りは一切発生しない。友人が泊まりに来るのと同じ構造であり、荒木さんはこれを「社会が失ってきたつながりを再構築する試み」と位置づけている。
研修を突破した者だけが泊まれる——AIが見守る「信頼の証明」
ただし、誰でも無条件に泊まれるわけではない。学生は事前に3日間の研修を受け、合格しなければならない。時間を守れるか、シーツの交換や掃除が自分でできるか、コミュニケーションが適切に取れるか。研修施設で撮影された写真からゴミの有無をAIが検出するシステムまで開発中だという。
この仕組みの背景には、荒木さん自身が1年間、毎月学生を泊め続けてきた実体験がある。約束の時間にギリギリまで連絡が取れない学生、部屋を汚したまま帰る学生。「1回はできても、続けられない」という痛みから、ホストのストレスポイントをすべて洗い出し、それをカットする仕組みを構築した。
そして、この研修プロセスから蓄積されるデータこそが、荒木さんの構想の核心に直結する。約束遂行率、コミュニケーション能力、ホストからの口コミ。「ちゃんと掃除できたよ」「話していて応援したいと思った」「志がある」——こうした、履歴書には決して載らないクローズドなデータが、泊まるたびに積み上がっていくのだ。
「ぶった切り」をやめたい——AIエージェントが描くキャリアの連続性
対話の中盤、荒木さんの口から「これはまだ10人くらいにしか話していない」という構想が飛び出す。佐藤が思わず「やべえな」と漏らしたその構想とは、AIエージェントを活用した、人材業界の根本的な再設計である。
荒木さんの問題意識はこうだ。現在の人材業界は、就職のマッチングまでは手厚いが、入社後にその人が幸せに働いているかどうかには責任を持たない。上司が「この子は営業よりカスタマーサクセスの方が向いている」と感じても、そのデータは転職時に引き継がれることなく、ぶった切りになる。1社目での気づきが2社目に活かされず、その人の「幸せに生きる片鱗」が毎回リセットされてしまう構造を、荒木さんは「おかしい」と断じる。
彼が構想するのは、すべてのユーザーにAIエージェントがつき、18歳で初めて上京した時から、1社目、2社目、3社目と、キャリアを通じたクローズドなデータが蓄積され続けるプラットフォームだ。ヘッドハンティングの世界では、前職の上司への裏取りや詳細な人物評価が当たり前に行われている。しかし、それは一握りのエグゼクティブにしか提供されてこなかった。AIであれば、その手厚いサポートをプラットフォーム上のすべてのユーザーに届けることができる。
佐藤はこの構想を聞きながら、「恵比寿で一生懸命やっていた頃の延長線上にあるようで、構造的にはまったく別次元のものができている」と驚嘆する。泊まる場所を提供するという素朴な行為の裏側に、人の一生に寄り添うデータ基盤が静かに組み上がろうとしている。その飛躍の大きさに、対話はしばし沈黙する場面すらあった。
つなぎ道とAIが交差する場所——「お金にならない」が覆る時代
対話の終盤、話題は佐藤の「つなぎ道」と荒木さんの構想がどこで交差するのかという問いへと移っていく。佐藤は、人と人をつなぐという行為を体系化し、「つなぐ技術」として本にまとめようとしている。一方の荒木さんは、「場所」を介して人をつなぎ、そこにAIを掛け合わせることで、つながりのデータを可視化し、次のつながりを自動的に生み出す仕組みを構築しようとしている。
興味深いのは、荒木さんが「ホストファミリーが、先週泊まった子と今週泊まった子の共通点に気づいて、二人をつないでくれる可能性がある」と語った場面だ。直接はつながっていなかった二人が、「場」を介してつながる。そしてそのつなぎ手はホストという人間であり、その判断をAIがサポートする。佐藤が長年実践してきた「つなぎ道」の思想が、テクノロジーによってスケールする瞬間が、ここに見えている。
荒木さんは言う。「お金にならないとされてきた分野に、AIで下剋上が起きる」と。誰かと誰かをつなげても「つなぎ料金」は請求できない。それは野暮だからだ。しかし、つなぐことで生まれる価値を、AIが構造化し、可視化し、持続可能な仕組みに変えることは可能だ。大企業が突き詰めてこなかった領域に、31歳の起業家がバイク一台で切り込もうとしている。4月には伊勢を皮切りに全国を回り、各地のホストを訪ね、ショート動画で発信していくという。
このあたりの話は、文章で読んでも十分に刺激的なのだが、同時に「実際にこの二人がどんなテンポでこの話をしているのか」を見たくなる場面でもある。なぜなら、ここでは完成されたビジネスプランが披露されているのではなく、「まだ10人にしか話していない」という構想が、対話の熱量の中で初めて言語化されていく、その生々しいプロセスが起きているからだ。
動画では、テキストには収まりきらない荒木さんの表情の変化や、佐藤が「やべえな」と思わず漏らす瞬間の空気感をそのまま体感していただけます。ぜひ、実際の対話の様子をご覧ください。
つなぎ道トーク #9 荒木孝文|シェアハウス兼ゲストハウス『そのまんま荘』オーナー
学生起業で若者が東京で集える場所づくりから、一度失敗して事業をたたむも 2025年より再チャレンジ中。 若者が東京で、もう宿泊場所に困らない未来を創る。 より人と人が作れるコミュニティを創る。3月末をもって日本企業(東大発AI企業Pakshaグループ)を辞め、4月よりアメリカ・シリコンバレーへ渡米。
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